他人を傷つける言葉を言わないのは優しさじゃない

言って欲しい訳じゃない。

言わない人を優しくないという訳でもない。

俺はあんまり言わへんけど、それは優しさではない、ということ。

 

対企業接客の社会人として失格であろう長髪を上げて固め、耳にかけ、誤魔化しゴマカシ仕事をしている。

最近、いやずっと言ってるかもしれへんけど寝ても寝ても眠い。仕事中に腹が痛くなってトイレから出れなくなることもある。不調である。恐らくストレス性の、不調である。

それもこれも支店長に面談で「小説を書いてまして...」と打ち明けたからだろう。新人賞の締め切りが近いからと希望休を増やしているからだろう。

そのくせ、書けてないからだろう。

ほんま、小説書けって話やねんな。才能ないねんほんま。

 

最近、ぼんやりしてるやつと電話してて(やつは忙しいらしい)、生きるうえで自分のやりたいことや大切なものを全部失ったらどうするか、という話になった。俺は、もし俺が信頼できるこの世の全てを知っている人がいたとして、そいつに「君は小説家にはなれないよ」と言われたら死ぬやろうなと言った。

でも、やつは、全部なくなって、例えばアイアムアレジェンドのウィルスミスになったとしても死なないと言った。それでもなんとか生きるためにやることをやると言った。

強すぎへん?生きるために生きることができる人になりたいと俺は思う。

 

あと、なんかはてなブログのスター(いいねみたいなやつ)が押せない状態になってる。スターをタップしたらその人のブログのトップに戻ってしまうから、君らのブログに俺のスターは残らへんねんけど、いいねと思ってます。

 

よし、寝る!人類文明の発展のために寝るぞ!

明日頑張れよ、俺!

新宿とダンス

空が低くて届きそうね

でもきっと私なんにもなれないわ

このままじゃ全部がこわくてしかたないわ

18歳になったら失効する権利を

大事にしたままハタチになったよ。

恋人になったら得られない幸せを

大事にしてたら、君はいなくなったの。

 

空を見る夢を見る

音楽が流れて君の声が聞こえる

まやかし、暖簾に腕押し、夜は愛

空の星見て君が言う

「綺麗なものに興味がないよ」

 

もし、何の役にも立たないとしても、

望まれたい求められていたい

私は言う

「そうでなければ生きてる意味なんてないよ」

だから、駅に電車が入ってくるまで

せめてこの10秒間だけは君の10代と踊る

 

夜と風邪

 

星宮は空に向かってクシャミをする。

「ベランダ、寒いやろ、はよ中入り」

部屋の中のハシがガラガラと窓を開けて星宮へ言うと彼女は「もうちょい」と熱心に空を見上げることをやめない。

ハシがため息をついて、星宮は頭の端っこでこっそり、その数を数えている。

「私たちが付き合い始めてから五千六百ニ回、同棲し始めてから三千二百四回」と彼女は思う。

付き合って五年だから、ハシは実に一日に三回以上ため息をついていることになる。一緒に住んでから余計増えた。

星宮はハシのことが好きだ。でもハシのほうはどうなのだろう。ため息が溢れるたびに星宮の存在がグラグラ揺らぐ。

夜空の真っ暗の中で星がひゅるひゅる光っている。

星のひとつひとつが灯りだとすれば私の顔はどれだけ照らされるだろう。夜はどれだけ明るくなるだろう。

星宮は危うくため息をつきそうになった。彼女はハシと付き合い始めたときにため息をつくことを辞めた。すごく淋しいからだ。夜空の星がどこかへ飛んでいってしまいそうだからだ。

するとため息の代わりにクシャミが出た。

「ほらもぉー、風邪やん」

気がつくとハシが隣にいて、星宮の顔を覗き込んでいた。

ハシの長いまつ毛が上を向いている。彼女の腕が彼女を抱える。星宮はハシに肩を抱かれながらハシの顔をじっと見つめた。

そのとき、点々と咲く花のようだった星たちが強く光り輝いてハシの顔を照らした。彼女の顔は綺麗だ。

星宮はそれだけで安心した気分になってハシの手を引いて部屋の中に入る。

彼女らは発光する夜に別れを告げる気持ちで後ろ手に窓を閉めた。

いつかと思った明日が

好日は夜明け。ゆらゆらと。

世界の爪先は私を指している。

出しっぱなしの本の頁を指先でさらさら捲る。

眠ること以外に気力がない。さもありなん。

眠ることも。

あなたは信号を送る。

トンツートントン

 

今日

レジの前の、床に貼られたビニールテープの枠の中に突っ立って外を見ていると、雨が降り始めた。本屋の店員から「袋は有料ですが、」と言われたとき傘もマイバックも家に置いてきたことに気がついて、自分への苛立ちを隠しながら「お願いします」と言った。

本屋を出ると本降りになるかならないかくらいの雨で、もしかしたら長く降り止まない雨が来るかもしれない。

元々行くか迷っていたけれど空模様に気圧されて近くのタリーズに駆け込んだ。今どき珍しいまだ紙のタバコが吸えるタリーズだ。レジで一番安いアイスティーのSサイズを頼んで下を向くと、店員がレジ台の上に置いたストローの袋の上を小さな虫が歩いている。

喫煙席(なんと喫煙席の方が禁煙席より席数が多い)の奥の席に陣取って本屋で買った禁色の文庫本を読みながらタバコを吸う。最近銘柄を変えたけど電子タバコにする気が全く起きない、というか電子タバコを買うのがめんどくさい。

高齢者の溜まり場になっている店内は効きすぎた冷房と耳障りの悪い年寄りの小言で居心地が悪かった。

外を見ると雨が止んでいる、どころか日が出て通りが明るく照らされている。こんなことならもう少し待って家に帰ればよかった。せっかくの休日だから外に出たのであれば長く外に居ようと下心を出したのがよくなかった。あれ?クーラー消して出てきたっけ?てか、鍵閉めたっけ?そもそも今日休みやっけ?

文庫を閉じて、ちらりと時間を見ると16時を回っていた。帰るか、と思った時にスマホの画面にLINEの通知が表示された。

「今日はすき焼きやで」

すき焼きはうまかった。豆腐は食わんかった。

無主張無責任虚構神話

まるでポケットから取り出すような手軽さでキミヤは宇宙を作った。宇宙はキミヤの手を離れた瞬間から、僕らの認識する宇宙の体を成していた。はじめから、太陽も地球も多種多様な生物も文明も、ありとあらゆるものが完成されて宇宙は登場したのだ。こんなことを言うと歴史を否定しているように思われるかもしれないけど、そうじゃない。布地を織り成す糸のように繊細で複雑な歴史さえも創造の瞬間から既に存在していたんだ。キミヤが何者かと言われると僕はわからない。それ(キミヤのことだ)は神であると言われればそうかもしれないし、人であると言われればそれもまた否定はできない。

とにかく僕はキミヤが宇宙をこの世に手放すところをこの目で見た。だから、宇宙はキミヤの手から生まれたということは間違いない。しかし、不可解なのは、僕はただの人間だということだ。キミヤが作り出した宇宙に生まれたはずの僕がどうして、その宇宙誕生の瞬間に立ち会えたのだろう。

 

キミヤの居場所はこの世の全てだ。宇宙の外側と内側。キミヤは太陽と隣り合う大いなる存在で、海に浮かぶ島で、誰かの目に映る光で、晩ご飯の香りで、窓から吹き込む風の柔らかさで、キミヤは電車の吊り革に付着している。

幼い子供のまっさらな頭を撫でたときの、どんなに遠い出来事でも思い起こすことのできる、けがれのない感触はキミヤだ。「もう、飽きたよ」とキミヤは僕にわかる言葉で話すけど、その意味は僕にはわからない。たぶん、僕は、僕らは(今は「キミヤ」と名付けられた)それに、名前を付けることが憚られたのだろう。もし、今この瞬間に世界がキミヤの存在を否定したら、忘れたら、黙殺したら、キミヤは甘んじて受け入れて、その存在を広大な夜の中に溶かしてしまうだろう。それから二度とキミヤは現れないし、もう誰の気持ちも侵害しない。

僕らが呼びかけたとしても、キミヤは答えない。もうすでにキミヤはどこにもいないんだ。

さらば、夜明けよ

「照ちゃんは、僕が辛いときにだけ僕のそばにいてくれたらそれでいいよ」と言ったら、照美は、右手に持っていた買い物袋を、わざわざ左手に持ち替え、空いた右の掌で僕の頬をぶった。ぶたれたところが熱くなって、目に涙、鼻に鼻水が溜まってくる。

僕は涙をたたえた熱っぽい目で彼女の方を見たけど、僕が照美を愛したことは一度もなかった。だから、彼女の鼻が僕のよりも赤くなっていくのに、僕は何も思わなかった。

照美は絶対に泣くまいとしているのだろう、瞳の奥まで来た涙を堰き止めるため必死に鼻をすすっている。

「祐也は私のことを何も見てくれてなかったんね」

彼女の言う「祐也」とは、きっと僕のことではない。僕はクズだけど、最低の男ではないと思う。僕は「それは照ちゃんも同じだよ」と言いかけて、辞めた。

僕らは成り行きでこうなった。

 

照美の目から涙が落ちて、彼女は買い物袋を放り投げて、どこかへ行ってしまった。

アスファルトにぶつかった買い物袋の中の、六つ入りの卵が全て割れてパックの中から溢れそうになっている。

僕らの体に流れる血液は一滴たりとも大人にならない。大人にならない僕らのまま、何かが変わると信じたまま、日常だけが進んでいく。

二人分の買い物袋を一人で提げても、二人分の重みなんて感じることはできない。

 

家に帰った僕は割れた卵を全部使って大きなオムレツを作った。我ながら上手くできて驚いた。僕には自炊の才能があるのかもしれない。

皿に盛り付けて、テーブルに置くと、変だな、目の前のオムレツが遠くにあるように見えた。疲れたんだろう。ひとりにしては大きなオムレツ。ひとりにしては広い部屋。ひとりに不釣り合いな感傷。

ふわふわの生地の上に滴が落ちて、僕は自分が泣いていることに初めて気がついた。