高校の時の友達、あれ、名前なんてったっけ、たしか苗字に「山」って字がついとったと思うねんけど。あかんな。かなり長いこと一緒におったのに、忘れてまうなんてな。まぁ、十年以上前の友達のことやから、堪忍な。

そいつと、その「山」くんと、よく海でキャッチボールしとってん。俺ら、同じ部活やってんけど、部活の他の奴らとそりが合わんくて、高二の夏に一緒に部活辞めて、もうずーっとキャッチボール。いや、野球部ちゃうよバスケ部。

砂浜でボール投げ合ってんねんけど、投げるときに踏ん張りは利かへんわ、ボールが海に落ちそうになるわで、よう考えたらなんで海でキャッチボールなんかしとったんか、アホやなぁって思うけど、でもほんま楽しかったことだけは覚えてる。ボール投げて、それがまた返ってくるだけでおもろいねん。俺、投げ返しながらゲラゲラ笑っとったわ。意味わからんやろ?笑うからコントロールがブレブレになって全然ちゃうほうに飛んで、それ見てまた笑った。

ほんま、今になって考えたら理解できへんねんけど、ずっと海におったな。ボールを投げんのに飽きたらキャッチボールの距離感のまんま砂浜に座って海を見たりしてな、なにも言わんけど広いなぁとか、綺麗やなぁって話してるみたいやった。朝から晩まで海岸におるもんやから髪の毛から足のつま先まで海の砂だらけんなって。なんでこんなとこから出てくんの?ってとこから砂が出てきて、おかんに見つからんようにこっそり洗濯かごの一番下に押し込んでた。悪いことしたな。

そうそう、キャッチボールの話に戻ってアレやねんけど、俺もあいつも、どんなボールでも捕れるねん。どんだけ変な方に飛んでいっても、同じ分量ずつだけお互いのことをわかっとって、相手が投げる前にどこへ飛んでくるかの見当がついてて、たまにヘッドスライディングしたりしてな、そりゃもう大変よ。

なんか、話してたらあのときの感覚を思い出してきたわ。精一杯からだを揺すって、陽が落ちた暗闇ん中に砂を払い落として。全然落ちへんねんけど不思議と嫌な感じはせえへんねん。おかんに怒られるんは嫌やったけど。

二人並んで目と鼻の先やけどチャリンコで家に帰るねん。はたを見たら港町の、車道の広い商店街があって。さびれてるけど、クリスマスツリーに巻き付いてるのをでっかくしたみたいなライトが軒先にぶら下がってて見た目だけは賑やかやった。

潮騒が後ろ側で遠ざかっていく。見上げると驚くほどまん丸で、この夜で一番大きな光が俺とあいつを引っ張ってた。でも、俺ら全然寂しくなかった。それはあいつも同じやった。わかるねん、うん。