正月

‪父親は卓球を始めたらしい。俺が帰ってきたとき、なんでもないって顔で‬‪「卓球はじめてん」と言っていた。‬
‪その後、兄夫婦が来たときも同じ感じで「卓球はじめたから痩せるで」って言っていたから自慢したくて堪らないのだろう。‬

そういえば父親が自身のことを、どの一人称で呼ぶのか思い出せない。たぶん、「父さん」って言ってたと思うけど俺が生まれたときからずっと「父さん」なのだろうか。

父親はいつから「父さん」なのだろう。俺からしてみればそんなことは絶対にないのだけど、父親が生まれたときから「父さん」なのかもしれない。

いい加減、父という字がゲシュタルト崩壊してよくわからなくなってきた。二つの矛みたいものが重なり合っている記号にしか見えない。

外国映画の口髭を生やして古臭いメガネをかけたおっさんのピチピチのハーフパンツ(膝が丸々出て、腿まであらわになっている)姿が父親にダブって、それが下手くそな姿勢で卓球しているところを想像して嫌になった。

俺が高校の時に履いていた膝が隠れるタイプのバスケパンツを欲しがっていたからあげよう。‪

母は変わらず、俺のために甘い栗きんとんを山のように作っていた。‬母は俺がさつまいもとか栗とかの秋っぽい甘いものの類を好きだからと(あとミカン)いつになっても大量のスイーツを作る。俺が家を出て、それに拍車がかかったようでそれはもう、いっぱい作る。俺の短い実家滞在期間のうちに全て食えと言うのだからこちらの胃袋がもたない。
‪たぶん、俺が30を過ぎても母は「あっ」と言って冷蔵庫から大きめのタッパーになみなみ入った栗きんとんを出してくるのだろう。

兄夫婦は、よくわからん。帰ってきて新年の挨拶をしてから「気をつけて」と送り出すまで彼らの顔をニ、三度しか見なかった。しかも顎の辺りを見ていたから目は一度も見なかった。だから、よくわからないし家族の話に俺の名前が出てくるたびに、これから包丁を入れられるのを待つ俎上の魚のような気分になった。兄に対しては生きていてほしいと思わないけど、死んだら嫌だとは思う。とりあえず、兄の、輩みたいなその髭はなんとかしたほうがいいと思う。

俺の方とは言うと、明日の朝6時の新幹線で関東に戻らないといけないから早く寝ないといけない。実家に帰ってくるたびに、もう帰らないかもなと思うけど、結局毎度ちゃんと帰っているから次もきっと帰るのだろう。

体が寝たくないと言っているが、いい加減寝ないとやばいので寝る。