百円のサンドウィッチとラッキーストライク(昔書いたやつ)
畠山は二階から外の景色を見ていた。
鼻をかんだティッシュみたいにクシャクシャの雲と、空の色が映ったらしい真っ青な海が畠山の目の前に広がっている。
反射したり、滲んだり、褪せたりして、なにごともないかのように存在する。
目というのは不思議だ、と畠山は思う。
高校の時、授業を真面目に聞いていなかった彼女は虚像とか、実像とか、そういうものはよくわからないが、要は目の奥でちゃんとものが見えるように仕掛けがあるようだ。その仕掛けのおかげで私は光に触れられるのだ。心を動かせるのだ。
人間というのはつくづく便利な生き物だ。
自分の心を動かせるよう、綺麗なものはより綺麗に見えて、見たくないものからはピシャリとまぶたを閉める。
風が吸い寄せられて窓から入ってきた。
畠山は突然、失恋したみたいな気分になったので窓を閉めた。なぜか、涙が溢れてきて、うっうっと男みたいに泣いた。
涙に混じって嫌な気持ちも流れればいいのに。
畠山は泣いてもスッキリなんてしない。きっと、泣いてスッキリする人は泣いてる自分が可哀想になるのだ。だから、自分に同情して、あれは仕方ないよって自分を慰めるのだ。畠山はそうはならない。
泣いている弱い自分を心底嫌いになる。だから、彼女は人前では絶対に泣かないし、自分の前でも泣きたくない。
私は強い人間なんだと確信しながら生きたいと畠山は思っている。どんなことがあっても折れ曲がったりしないように余裕を持って生きたい。
涙が止まって窓を開けると、相変わらず世界は青い。
私の心の中も、青いなら、こんな青になったらいいのに、と腫れた目で睨みつけた。