執拗に夏を嫌う女(昔に書いたやつ)

八月が嫌いだ。 

肌もTシャツも、爪の先から舌の根っこまで、元気のいい太陽に照らされて黒ずんでいくから嫌いだ。 

初めて、親知らずを抜いたのも八月だったし、好きだった男の子に違う女がいたことを知ったのも八月だ。 

別に、悲しくなんてないよって言う私のおでこからは涙の代わりに汗が蛇口をひねったように流れ落ちた。 

八月なんて大嫌い。 

皆、夏になるとテンションが上がったり何か新しいことはじめようとする。 

でも、夏っていうだけでドキドキするのは間違っている。季節に自分の気持ちを左右されるなんておかしい。私は自分で自分の心を動かして、年がら年中ドキドキしていたい。夏なんていう、かき氷のように溶けてなくなったり、花火のように一瞬で散ったり、スイカのようにパカッと割れたりするものに惑わされない。 

体の気怠さや月末の電気料金や日向の眩しさやらは全部、夏のせいにして嫌いだ嫌いだと八月を呪いながら私は生きていく。これからも八月になるたびに色んなことを思い出しながら死ぬのだ。 

隣の誰かがそっと呟いた。 

「夏が終わらなければいいのに」 

私は八月が嫌いだ。