淀屋橋にて

JR大阪駅の改札を出ると、大勢の人が地面を埋め尽くすかのように歩いていた。若い男女、サラリーマン、外国人。行き交う人々を横目に見る。皆、それぞれに違う格好をしていて、スーツの上にコートを羽織っていたり、短いスカートを穿いていたり、山に行く時みたいな帽子を被っている。
待ち合わせ場所のbookstudioの前を見るとまだ誰も来ていない。時計を見ると二時三十分を少し過ぎたところだった。約束は三時だ。オレは煙草を一本吸い、bookstudioに入って棚をしばらく物色し白痴を買った。
外に出ると伏見さんがスマートフォンを見ながら立っていた。
「お疲れ様です」
オレが声をかけると
「お疲れ様、ロッカーみたいな髪やな」と伏見さんはオレの頭を見て言った。
お疲れ様というのはオレたちのようなバイト仲間がアルバイト終わりなどに相手を労うために言う言葉だったが、今やおはようやこんにちはのような、一種の挨拶のようになっている。
「皆さん、まだ来てませんね」
「そやね、平野さん三十分くらい遅れるらしいで」
伏見さんはオレと同じ学年の二十歳だ。体格がよく、落ち着いた雰囲気の彼はそれ以上の年齢に見える。オレより先にアルバイトで働いていた彼にオレは敬語を使い、伏見さんと呼ぶ。
伏見さんはスマートフォンを着ていた灰色のダウンジャケットのポケットにしまうと、腹をさすり出した。
「どうしたんですか?」と俺が尋ねると
「いやさ、昼に食い過ぎて」
「何食べたんですか?」
「天津カレーチャーハン」
雑多な料理を言葉で混ぜ合わせたみたいだなと思っていると、歩行者の向こうから声が上がった。