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淡い 5

電車に二人で乗って、しばらく揺られ、乗り換えてまた揺られる。その間、ふたりに会話はなかった。黙っていると、時間が止まっているような感覚がする。電車に乗れば体を動かさずとも目的地に着く。御田はそれが自分の老いを止めているように感じるのだ。このままずっと電車に乗っていると、御田は一生19歳のままだろう。
駅に着いて、向井と別れた。ひとりになり、また次の電車に乗り換える。御田は何度も乗り換えて家と大学とを行き来するのだ。御田の老いが再び止まる。
電車の中はそれほど混んでいなくて御田の前にはおじさんや大学生風のカップルが座っている。その奥には闇に浮かぶ、星空のような光が窓の中を流れていく。その光と車内の人達に視線を行ったり来たりさせながら、御田は向井のことをぼんやりと考えた。少し、酔っているかもしれない。
そこからまた、御田は向井と一緒に過ごすようになった。御田が喫煙所で煙草を吸っていると示し合わせたように向井が現れて隣で煙草を吸った。大学の校舎の端にある喫煙所はいつも人が多く、頭上には雲が降りてきたかのような靄ができた。御田と向井は「屋内に喫煙所が出来れば」とか「単位が取れない」とか「煙草やめないと」とか言い合った。
「煙って不思議だよね」向井が言った。「うん」「煙草の煙ならいつまででも見ていられる自信あるよ」各々の口から吐き出された煙を見た煙は姿を何度も変え、空気中を漂った。煙に形はない。決まった形がないからこそ、美しいものもあるのだ。隣を見ると向井が何度も煙を吐き出しては見ていた。冷たい冬に煙を吹きかけて温めようとしているみたいだと御田は思った。