淡い 3

それから、御田は恋愛をしなくなった。人は恐らく、好意を言葉にしたり聞いたりすると恋が生まれるようであるが、御田は頭から、恋とか愛という言葉が抜け落ちたかのようだった。稀に人から好意を向けられることはあったがそれを返す気にはなれず、付き合うが面倒くさくなって別れるということを繰り返した。興味のない人間と一緒にいることほど苦痛なことはない。高校とは割と便利なところで、関係が切れた相手とは関わろうとしなければ関わらなくて済んだ。何度かそんなことがあったが、連絡先を消すだけで人間関係が解消されるように思えた。
恋愛を忘れた御田は友情に熱心になった。燃え上がったり、落ち込んだりしなくてはいけない恋愛に比べて、何も考えなくていい友情は楽だった。何人か、気の置けない友達もできた。

そのまま、御田は大学生になる。地方大学の国文科に進んだ。大学でも御田にはすぐ、何人か友達ができた。その中のひとりが向井だ。向井と御田は多くの時間を共にしていたが、恋愛めいたことを言わず、そういう雰囲気を出さない向井に御田は安心した。御田にとって、向井は出会ったことのないタイプの女の子だった。向井は一浪したからか、どんなことにしても自分の知識がないことを恥じていた。向井は幼い頃から本を読むことで生きてきた女の子で、知識だけはどれだけあっても困らないと考えていたのだ。知識なんて、この世には情報が砂漠の砂のようにあるから自分には少ないと考えているだけで向井にはいろんな知識があるだろうと御田は考えるが、向井の知識欲は留まるところを知らなかった。いつも向井は「知らないことばかりだ」と大学の授業のノートや社会の仕組みや煙草の煙や旅行中の景色やその他もたくさんのものを見たときに言った。そんな向井を見て御田も自分の知るところではない存在に触れ、理解しようと努めるのだった。