この気持ちに慣れるまで

コンタクトを取って、ゴミ箱へ捨てる。瞼から覗く視界の半分はぼやけていて、もう半分は何も持っていない自分が映りこんでいる。死にたいなと思う。死にたい。死にたいと思っていることを誰にも言えない。もう片方も取って眼鏡をかける。死にたいという気持…

さよならを照らす光

郷愁の道に揺れる白波 言葉は染みを作って 身体に地図を広げる 色は孤独で儚い 知ってたはずの寂しさを あなたは私に握らせた これは惜別 これは恋慕 いつか、いつかね、覚えてる? あなたの車に乗って 海岸線を指でなぞるみたいに 旅したこと 水平線へ向か…

知らない人の夢

私は孤独の中で歌をうたい 駅のホームで涙を流す 誰もいない。ここには誰もいない 希望の中に住むことができない小さな羽虫 この身を温める灯火ですら、私を理解しない 触れただけでパチリと消えてしまうことも貴方は知らない 生温い愛ならいらない、それよ…

高校の時の友達、あれ、名前なんてったっけ、たしか苗字に「山」って字がついとったと思うねんけど。あかんな。かなり長いこと一緒におったのに、忘れてまうなんてな。まぁ、十年以上前の友達のことやから、堪忍な。 そいつと、その「山」くんと、よく海でキ…

ここに書くことちゃうんかもやけど

あれからどれくらいの日々が過ぎた 「人生は旅だ」......そんなのは嘘だ。 俺は何処にも行けないじゃないか 流れるベルトコンベアの上で 日々を滑らせ運んで行くよ 部品を作る部品になった 身近で容易い欲に溺れた なぁ、あれからどれくらいの日々が過ぎた?…

さよならも言えずに

春は春を待たず、君の生き死にを待って窓から零れ落ちる光と風に揺らめくカーテンをほら、幕開だと言って、無情に無邪気に君は春に呑まれ、春は夏に呑まれ、夏は老い秋になって、冬はその死骸 春は慣性となって、重力となってその進む向きに世界は引き延ばさ…

誰かの望んだ点線

僕とあの子の答えは音楽とMVのなかにあるように思えた。 僕と君の答えは小説と映画のなかにあるように思えた。 僕らの答えは詩と短歌のなかにあるように思えた。 僕とあの子の答えは絵と写真のなかにあるように思えた。 それらは間違いであるように思えた。…

他人を傷つける言葉を言わないのは優しさじゃない

言って欲しい訳じゃない。 言わない人を優しくないという訳でもない。 俺はあんまり言わへんけど、それは優しさではない、ということ。 対企業接客の社会人として失格であろう長髪を上げて固め、耳にかけ、誤魔化しゴマカシ仕事をしている。 最近、いやずっ…

新宿とダンス

空が低くて届きそうね でもきっと私なんにもなれないわ このままじゃ全部がこわくてしかたないわ 18歳になったら失効する権利を 大事にしたままハタチになったよ。 恋人になったら得られない幸せを 大事にしてたら、君はいなくなったの。 空を見る夢を見る …

夜と風邪

星宮は空に向かってクシャミをする。 「ベランダ、寒いやろ、はよ中入り」 部屋の中のハシがガラガラと窓を開けて星宮へ言うと彼女は「もうちょい」と熱心に空を見上げることをやめない。 ハシがため息をついて、星宮は頭の端っこでこっそり、その数を数えて…

いつかと思った明日が

好日は夜明け。ゆらゆらと。 世界の爪先は私を指している。 出しっぱなしの本の頁を指先でさらさら捲る。 眠ること以外に気力がない。さもありなん。 眠ることも。 あなたは信号を送る。 トンツートントン

今日

レジの前の、床に貼られたビニールテープの枠の中に突っ立って外を見ていると、雨が降り始めた。本屋の店員から「袋は有料ですが、」と言われたとき傘もマイバックも家に置いてきたことに気がついて、自分への苛立ちを隠しながら「お願いします」と言った。 …

無主張無責任虚構神話

まるでポケットから取り出すような手軽さでキミヤは宇宙を作った。宇宙はキミヤの手を離れた瞬間から、僕らの認識する宇宙の体を成していた。はじめから、太陽も地球も多種多様な生物も文明も、ありとあらゆるものが完成されて宇宙は登場したのだ。こんなこ…

さらば、夜明けよ

「照ちゃんは、僕が辛いときにだけ僕のそばにいてくれたらそれでいいよ」と言ったら、照美は、右手に持っていた買い物袋を、わざわざ左手に持ち替え、空いた右の掌で僕の頬をぶった。ぶたれたところが熱くなって、目に涙、鼻に鼻水が溜まってくる。 僕は涙を…

たぶん、このひとときが過ぎたらもう十分だなって思う。僕は手に入れたもの全て失ったと思っていた。でもそれは間違いだ。僕は失ってなんかいなかった。 なにが起こったとしても大丈夫だ 僕はもう、僕の僕らしさと、さよならしたとしても大丈夫。

星を見て泣いた夜

今も覚えてる 眠れない夜のことを 屋上へ続く階段を すり減ったコンクリートと 嫌われ者のバンドマンが 同じ色に染まったんだ 鍵の壊れた柵の外へ出ると 上も下もわからなくなるようで きっとどうかしてたんだね あの日夜空は七色だった あいつがいった 君は…

無題2

僕の職業はコンビニ店員です。ってこの前、ケータイショップの派手なネイルした派手な鷲鼻の女に言ったら、「それではご職業の欄のフリーターに丸をつけてください」と言われた。 僕はコンビニ店員って言っても正社員やっておるねん、なんでアルバイトって決…

無題

‪「山寺がさ、店長ぶん殴ったらしいんよ」 藤木は咥えたタバコのフィルターを噛み潰しながら言った。俺は品出ししてたからわからんかったんやけどと続ける藤木の口端から煙が上がって僕の肩をすり抜けた。 ‪ 「でも、店長の方は殴られたことには驚いていたみ…

正月

‪父親は卓球を始めたらしい。俺が帰ってきたとき、なんでもないって顔で‬‪「卓球はじめてん」と言っていた。‬‪その後、兄夫婦が来たときも同じ感じで「卓球はじめたから痩せるで」って言っていたから自慢したくて堪らないのだろう。‬ そういえば父親が自身の…

多摩川のほとりからあなたを想って

言ってなかったかもしれないけど、私、結婚するんだ。 ミチが独り言みたいに呟いたのは夏が終わる頃だった。 僕は何にも答えなかったけれど、内心で、言ってなかったかもしれないなんて嘘だ、と思っていた。僕はそんなこと、まず間違いなく聞いてないし、な…

海に浮かぶ月

一人で入るお風呂に、前のバイトを辞めたときに貰ったクラゲをモチーフにしたおもちゃを浮かべると、心を見通せるような気がした。 時間は21時50分を回っていた。行こうと思っていたスーパーマーケットは22時に閉まる。 あぁ、今日も買い物に行けなかった。 …

空気を吸う余地がない

あんまりだ 贅沢だ 生きていくには あまりにも 金がかかる ぽつかりと 口を開けた 天の穴から 降り注ぐ 一万円札を 掻き集めて 生きている

傀儡

我、先々へ行かんと、夜行バスに飛び乗ったは良いものの、どこへ行くと言うのだ、我の明日は、どこへ行くと言うのだ

急行に乗って

キツキツの缶詰みたいな電車が ぱきゃりと蓋を開けて 溢れ出す中身の気分に 染まっていく

君は毎回言うことがちがう

カタクチイワシ、なんて名前は可愛さに溢れていると思う。片方のクチってなんだ。 アコーディオンカーテンは命名した人に会ってみたいくらいだ。あなた、これはジャバラカーテンです。 「いい人間になろう」と言えば、その瞬間から、いい人間になれるみたい…

今生の

病に床臥し、いくばくか流れた。 身体に三粒の腫れ物がたたっている。 ひとつは欲する。ひとつは願う。ひとつは哀し。 弾けることが全てと、膨れて、いつかを待っている。 今は小さくても、やがてビッグになってやると腫瘍は夢を描いている。 心の浜辺に腰を…

あ(昔書いたやつ)

ひらけた。うまれた。とんだ。 君の瞳に僕がうつって、世界ができた。 この時に君がすこし嫌な顔をして、僕は笑ったから世界はゆがんだ。 手のひらの中で大事にされた泥だんごのような世界は自分がなんでもできるとカンチガイしていろんな方向にのびたり、と…

今日の日記

夏に蝕まれている。いや、オレが夏を侵しているのか。よくわからん。死ねと言われてもわからん。ろくに死ねやしない。寝不足でなら死ねるかもなぁと振り返った矢先、君は暑さに倒れて死んでいる。あぁ、夏に蝕まれている

明日変えると思います

焼えいひれとキクラゲ 上白糖の雨 公共料金未払い どっかの家からカレーの匂い お母さんお父さん 兄、嫁さん 知ってる? ねえ知ってる?って バカみてえでやんの 死にたい ねえ死んでよって バカみたいだ

百円のサンドウィッチとラッキーストライク(昔書いたやつ)

畠山は二階から外の景色を見ていた。 鼻をかんだティッシュみたいにクシャクシャの雲と、空の色が映ったらしい真っ青な海が畠山の目の前に広がっている。 反射したり、滲んだり、褪せたりして、なにごともないかのように存在する。 目というのは不思議だ、と…